
●PROFILE
こもだまさひこ
アイコム・オーストラリア・マネジング・ディレクター
<略歴>
1984年アイコム入社、87年アイコム・アメリカ出向(サービス部門)、96年アイコム・シンガポール駐在(部材調達)、98年アジア・アイコム(台湾)出向、2012年7月より現職。
進出日本企業 トップ・インタビュー
第2回
アイコム・オーストラリア
薦田雅彦 マネジング・ディレクター
歴史的な円高を背景に日本製造業の海外移転が加速する中で、あくまでも付加価値の高い「メイド・イン・ジャパン」の商品で世界に勝負を挑んでいる企業がある。無線通信機器やネットワーク機器などの製造・販売を手がけるアイコム(大阪市平野区)。その在豪現地法人、アイコム・オーストラリア(VIC州クレイトン)の事業戦略について、薦田雅彦マネジング・ディレクターに話を聞いた。
(インタビュー=ジャーナリスト・守屋太郎)
無線デジタル技術で世界最先端を行く
追随許さぬメイド・イン・ジャパンの底力
開発と製造、2つの技術に注力
——アイコムとはどんな企業なのか。沿革や主な事業・商品など会社の概要について教えてください。
アイコムは無線通信技術を基盤とした各種無線通信機器(トランシーバー)・無線LAN技術を利用したネットワーク機器などの開発・製造・販売を事業内容としている会社です。
1964年、井上電機製作所を設立しアマチュア無線機の第1号機を開発、販売を始めました。その後、ドイツや米国、豪州など世界各地に販売拠点を構築するとともに、陸上業務用、海上用、航空用などの無線機、さらには当社の無線技術を応用した無線LA N機器、IP電話システムなどへと業容を拡大してきました。
これまでアイコムが一貫して念頭に置いてきたのは「技術」の重視です。製造業には「商品開発技術」と「製造技術」が要求されますが、アイコムはこの2つの技術を磨いてきました。社是に「常に最高の技術集団であれ」を掲げているのはこのためです。創業より一貫して日本国内生産を行っており、1988年に製造部門を子会社化した和歌山アイコムを設立、2009年には第2工場となる和歌山アイコム紀の川工場を新設しました。またアイコムは無線通信のデジタル化技術、製品開発では国内外の先端を走っています。
災害時の通信確保で豪州社会に貢献
——オーストラリア事業の現状はいかがですか?
陸上用業務、海上用、アマチュア、航空機用無線機の販売、修理・サービスが主な事業です。主力商品は、陸上用業務無線機で売上の約6割を占めています。その中でCB無線機、デジタル無線機などが市場評価に置いて群を抜いています。
陸上用業務無線機は豪州国内の顧客に幅広く使っていただいています。例えば、緊急救助隊(SES)や地方消防隊(CFA)など災害現場で活躍する救急隊員には、その信頼性で高い支持を得ています。CB無線機は免許不要で4輪駆動車のドライバーなどアウトドアのレジャー・ユースに使われている一方、日本製の高品質製品として強い信頼を獲得しているため、業務用にも多数使用されています。
前述の通り、陸上用業務無線機のデジタル化技術では競合他社の追随を許さず、他社との明確な違いを打ち出しています。陸上用業務無線機の豪州市場において、屈指のメーカーとして認識されており、常にトップ・グループの一員として他社としのぎを削っています。
——アイコムの世界ネットワークの中で豪州市場の位置付けは?

現場で活躍する陸上用業務無線機
豪州の人口約2,100万人に対して最大市場の米国は約3億1,300万人。国内市場の規模は限られていますが、豪州の無線機技術は、さまざまな場面で最先端を走っています。
例えば、国連に採用されている陸上業務用途HF無線機メーカーのうち2つは豪州のメーカーです。
本社の日本での陸上業務用途HF無線機の新開発の際には、無線機技術の最先端市場にある当社の助言が大いに貢献しました。南半球にある小さな現地法人という捉えられ方ではなく、果敢にアタックする革新的な企業という評価を受けています。
また、社会貢献も積極的に行っています。大規模災害発生時の通信確保には無線機が必須とされていることから、09年にV IC州を襲った山火事「ブラック・サタデー」や、10年末から11年初頭にかけてのQLD州の大規模洪水、同年のニュージーランド・クライストチャーチ地震などの際には、多数の無線機を寄贈しています。
価格競争力と高品質を両立
——アイコムの無線機器はすべて日本製です。円高や新興国メーカーの台頭で日本製造業の空洞化が懸念されていますが、メイド・イン・ジャパンを貫いていますね。
アジア製の低価格品は近年とみに存在感を増しており、品質も以前と比べ物にならないほど改善されています。アイコムは部材の海外調達比率を高め、日本で組立、検査を行うことで高品質な無線機器を競争力のある価格で提供できるように努力しています。ただ、10年前にはなかった模倣製品も特にアジア市場を席巻しており、競合他社との純粋な競争以上の脅威になりつつあります。
豪州市場は、まだまだ模倣品の流入は少ないようですが、いずれ大きな問題となるのは確実です。そうした状況の中でも、アイコムのデジタル化技術はアジアの低価格品が真似できるものではありません。デジタル化技術で実現できる明瞭な音質、通信セキュリティー、周波数占有率の効率化などで明確な差をつけ、1歩先を行く技術力で勝負しています。
——豪州の国内経済は、好調だった資源部門が商品価格の下落で先行きに不透明感が出てきているほか、豪ドル高で疲弊している産業もあります。労賃など高コスト体質も障害になっています。アイコムにとって、豪州事業の課題とリスク要因は何ですか?
欧州の信用不安、米国の経済建て直しという状況で、ほかの現地法人が苦戦している中、アイコムの売上は資源部門の恩恵を受けて好調に推移してきました。ところが、資源ブームと言われた豪州の鉱山開発も調整の兆候が見え始めています。売上の牽引役であった鉱山市場向け販売への依存から脱却を急ぎ、軸足を早急に移行する必要があると感じています。年末には新デジタル機の市場投入など商材もそろってくることから、陸上用業務無線機、特にデジタル機に注力し、販売促進活動を進めていきます。
また、世界全体の傾向ではありますが、無線機業界で働く人員は年齢層が高くなっています。IT業界の隆盛、ソフトウエア開発などが若者を惹きつけ、新しい血がこの無線業界に入って来ないという問題があります。もともと豪州は人件費が高い上に、こうした人材不足が深刻化しています。適正な人材の獲得がますます困難になっています。これを業界全体の問題と捉え、アイコムも豪州の無線機業界団体に加入し、研修生の受け入れや奨学金の交付など新しい人材の育成に協力しています。
先端技術とソリューションで競争に勝つ
——現状と課題を踏まえて、将来に向けた豪州市場でのビジネス戦略について考えを聞かせてください。
「無線機1台いくら」というボックスムーバー(単品売り)から脱却し、ユーザーが必要としているソリューションを的確に提供できる無線システム・プロバイダーを目指して、競争に打ち勝って行くつもりです。そのために専任の部門も社内に立ち上げました。最先端のデジタル技術とともに、システム・プロバイダーとして生き残りをかけた競争に臨んでいきます。
●英文会社名:Icom (Australia) Pty. Ltd.
●企業形態:アイコムの現地法人
●代表者:薦田雅彦マネジング・ディレクター
●拠点:VIC州クレイトン市
●社員数:駐在員3人、現地社員20人
●主な事業:豪州国内、南太平洋諸国への無線機の販売、修理・サービス
<沿革>
1982年 アイコム・オーストラリアをビクトリア州メルボルンに設立。
2005年 メルボルン近郊クレイトン市の現社屋に移転。
<トップに聞く10の質問>
1. 座右の銘:一期一会
2. 今読んでいる本:「人間の覚悟」五木寛之・著
3. オーストラリアの好きなところ:手つかずの自然がいっぱいある。抜けるような青空、雲の形が日本と明らかに違い立体的でおもしろい。人々のフレンドリーな対応。
4. 外から見た日本の印象:物質的に潤沢すぎるのか、特に若者のハングリーさがないように思う。
5. 好きな音楽:ピンク・フロイド、ラッシュなどのロックからサラ・ブライトマンなど幅広く聞く。
6. 尊敬する人:故スティーブ・ジョブス(米アップル創業者)
7. 有名人3人を食事に招待するとしたら誰?:田中耕一さん、イチローさん、孫正義さん
8. 趣味:写真、自転車、アマチュア無線、乗り物系全般、ゴルフ
9. 将来の夢:この地でグライダーが操縦できるようになること。
10. カラオケの十八番:「超人バロムワン」