
●PROFILE
せきね・けんいち
日野モーター・セールス・オーストラリア会長兼最高経営責任者(CEO)
<略歴>
東京外大卒業後、日野自動車工業(株)に入社。一貫して海外畑を歩み、中近東を10年、北米を15年担当したのち、海外企画部で海外全体を管轄。2009年8月より現職。海外勤務はサウジアラビア・ジェッダ(駐在事務所員、1年半)、カナダ・トロント(日野カナダ社長、5年)に次いで今回が3回目。
進出日本企業 トップ・インタビュー
第5回
日野モーター・セールス・オーストラリア
関根健一 会長兼最高経営責任者(CEO)
日本の大手トラック・メーカー、日野自動車のオーストラリア市場での販売が好調だ。2012年の販売台数は、トラック市場全体の伸びを大幅に上回る成長を記録した。日野のトラックは経済性や安全性、環境性能といった品質が高く評価されているという。在豪現地法人の関根健一・会長兼最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。
(インタビュー=ジャーナリスト・守屋太郎)
豪州市場でトラック販売好調
高い環境・安全性能が原動力に
トヨタと提携し、商用車専業にシフト
——日野自動車は日本を代表するトラック・バスのメーカーの1つとして知られています。会社の概要と主な商品について教えてください。

ブッシュファイアの消火活動でも活躍する日野製消防車
前身は1910年創業の東京瓦斯電気工業という会社で、戦前から複数の工場で自動車を製造していましたが、その中の日野製造所が独立して1942年に日野重工が設立されたのが、現在の日野自動車の始まりです。昨年、創立70周年を迎えました。
戦後の50年代に仏ルノー公団と技術提携し小型乗用車の生産を開始しました。当時はタクシーの多くはルノーから技術供与を受けた日野の「ルノー4CV」だったといいます。60年代にはイタリアの著名デザイナーによる「日野コンテッサ1300」が人気を集めました。ただ、66年にトヨタ自動車と業務提携したのを機に、自社ブランドの乗用車生産からは撤退しました。以来、トヨタ・ブランドの受託生産を継続しつつ、日野ブランドでは商用車の生産に専念しています。
現在の主力商品は、トラックが大型の「プロフィア」(海外名700シリーズ)、中型の「レンジャー」(同500シリーズ)、小型が「デュトロ」(同300シリーズ)の3シリーズ、各種バスなどがあります。トヨタからは4輪駆動車「ランドクルーザー・プラド」などの生産を受託しています。
日本国内の普通トラック(大型・中型)市場においては年度で39年間シェア・トップの座を確保しており、テレビCMではハイブリッド車をPRしています。またパリ・ダカの呼称で有名なダカール・ラリーでは、最近はレース自体は南米大陸で開催されていますが、今年のレースでは初参加以来22回連続完走を果たし、商用車部門の排気量10リッター未満のクラスで4年連続優勝の栄誉に輝いています。
一方、海外の市場では80カ国以上に販売・サービス網を展開しています。現在は日本からの完成車輸出よりもKD(ノックダウン生産)での輸出が主流を占め、タイや米国、インドネシアをはじめ多くの国で現地生産・組立てを行っています。オーストラリアでは現在輸入関税がほとんどないことから主に日本から完成車を輸入していますが、一部タイ生産の車型もあり、今後はタイ生産車が増えていくでしょう。
——どのような経緯でオーストラリア市場に進出したのですか?
当地では70年代からトヨタの代理店に日野の大型・中型のトラック販売をお願いしておりましたが、90年代から次第にトヨタは乗用車に専念し、商用車は日野に任せようという流れになってきました。そこで、94年に豪トヨタの大型・中型商用車販売部門から移管する形で、日野モーター・セールス・オーストラリアが設立されたのです。
2000年代以降は日本においてトヨタが日野への出資比率を拡大し、小型トラック生産も日野が手がけるようになりました。その結果、オーストラリア市場においても当社が小型トラックを扱うことになり「商用車の日野」のブランドが確立しました。
総需要は依然としてピーク時の8割
——業界団体の統計によると、2012年のオーストラリアのトラック販売台数(バン型の商用車を除く)は10.9%増加しました。金融危機後の買い控えの反動で需要は伸びているようです。
実はトラックの販売台数は2007年の約3万5,000台がピークで、金融危機後にその約7割の水準まで落ち込み、現在も依然として約8割の水準です。12年の乗用車の販売台数は約110万台と金融危機前の最高記録を更新しましたが、商用車の需要はまだそこまで回復していません。
背景には、「2スピード・エコノミー」(経済の2重構造=好調な鉱業部門と低調な製造業などそのほかの産業の格差を表現した言葉)の影の部分があると考えています。商用車は、鉱業部門の恩恵を十分に受けず、むしろ小売業や建設業の鈍化でマイナスの影響を受けています。
オーストラリアのトラック市場には日・欧・米の主要メーカーを中心に約20社が参入しており市場規模からすると過当競争になっています。最近になって韓国・中国勢も進出してきましたが当地のお客様にはまだ受け入れられていません。商品分野別の特徴を見ると、小型・中型トラックでは日野を含む日系各社で8割以上を占めています。これが大型トラックでは、長距離用途が多いことから米国や欧州のメーカーが強くなり、欧米勢が約8割、日本勢は約2割となります。
小型の5%はハイブリッド車に

環境に配慮した日野ハイブリッド・トラック。約2割の燃費削減が可能
——2012年のオーストラリアのメーカー別トラック販売台数を見ると、日野は4,206台と前年比で26.5%増加し、市場全体の伸びを大きく上回りました。シェアも前年の13.6%から15.5%に拡大しました。好調な販売の主な要因は何でしょうか?
日野のトラックは「QDR」(クオリティー=品質、デュラビリティー=耐久性、リライアビリティー=信頼性)の3点で高い支持を獲得しています。また環境や安全面での日野の高い技術がお客様に認められ、シェア拡大につながっています。
とりわけ10年ぶりにモデル・チェンジした小型トラックに高い評価が集まっています。ABSやエア・バッグはもちろん、制動時の車体のスピンを防ぐ制御装置「ビークル・スタビリティー・コントロール」(VSC)を搭載することで、安全性の向上を図っています。トラックは通常、エンジンの上にキャブ(運転台)がある構造ですので、どうしても乗降性や居住性が悪くなりますが、新型車では身長2メートルの運転手でも余裕を持って乗り降りでき、運転できるように改善しています。
当地は「ユーロ5」に準じた排ガス規制が採用されていますが、日野は排ガス規制対応はもちろん、ハイブリッド車の普及にも力を入れており、現在では小型トラック販売の約5%を占めています。お客様からは燃費が2割以上改善したと喜ばれています。ハイブリッド車を導入することにより環境負荷低減の取り組みを宣伝できる自治体や大手運送会社からも多くの引き合いがあります。
環境と安全を重視した車造りとダウンタイム(故障で稼働できない時間)が少なく燃費が良いという信頼性・経済性が日野の伝統でもあり日野ブランドの中核となっています。
新興国戦略のパイオニアになる

ダカール・ラリーのトラック部門に参戦している日野レンジャー
——日野の過去数年の実績を見ると、海外販売台数の全体に占める割合が高まっています。グローバルな企業戦略の中でオーストラリア事業をどのように位置付けていますか?
日野の国別の販売台数でオーストラリアはベスト10以内に入っており、収益性で見ると5本の指に入る重要な市場です
。 また、オーストラリアのお客様の要求水準は非常に高く、この市場で得たノウハウは、現在の新興国市場が成熟した時に必ずプラスになると考えています。新興国でもいずれ、快適性、馬力の大きいエンジン、低い環境負荷、より安全なトラックといった付加価値が求められてきます。この国でお客様のニーズをしっかり捉えていけば、日野の将来の海外事業において非常に大きな礎になるでしょう。
日本の普通トラックの年間販売台数は最盛期に約19万台ありましたが、現在ではその3分の1まで減少しています。しかしながら、オーストラリアは長期的に人口が増えていく成長市場です。トラックはモノの輸送だけではなく建設工事、消防、ゴミの回収など社会のさまざまな分野でニーズがあり、人が増えれば需要も拡大しますので、今後も安定的な伸びが見込まれるでしょう。
最大のリスク要因は為替の変動です。日本からの輸入・販売という業態は変わりませんから、円高による打撃から逃れることはできません。昨年末から円安に振れていますので現時点では追い風ですが、これから豪ドルが極端に変動しないとは誰にも断言できません。
——13年の総需要は5%程度に鈍化するとの予想も出ています。足元の動向と中長期的な戦略について聞かせてください。
今年の総需要は微増にとどまりそうですが、日野は前年比10%以上の販売拡大を目指します。小型トラックの新型車が本格的な普及期に入ります。中型も昨年から新型AMT(Automated ManualTransmission)搭載車を導入しており、今年も車種構成を増やしていきます。
トラックはサービス(点検・整備)が重要な商品です。豪州全域に60拠点のサービス網があり、必要な部品が常に入手できるようシドニー本社の部品倉庫から日々しっかりと供給しています。本社にはテクニカル・トレーニング・センターも設置しており、これを昨年さらに大きく使いやすいように大改装しました。ここで販売店やお客様のテクニシャンのトレーニングを重点的に実施しています。また年に1回は整備能力を競うコンテストを開催し、アフター・サービスの質の向上に努めています。
オーストラリアでは今後も着実に需要が拡大していく見通しです。しかしながら台数拡大だけではなく質の向上も併せて追及していきます。当社は日本の日野自動車の完全子会社ではありますが、それ以上に地元に根を下ろしたオーストラリアの企業です。トラックは「モノを動かす」「仕事をする」という社会的な役割が大きい商品ですので、先端技術を搭載した最新鋭の製品と最高のアフター・サービスをお客様に提供することを通じて、地域社会ならびに住民の皆様の生活にさらにお役に立っていきたいと考えています。
●英文会社名:Hino Motor Sales Australia Pty. Ltd.
●企業形態:日野自動車(株)100%出資の在豪現地法人
●代表者:関根健一・会長兼最高経営責任者(CEO)
●拠点:本社:シドニー、事務所:メルボルン、ブリスベン
●社員数:67人(駐在員6人)
●主な事業:日野製品(トラック、バス、補給部品)の輸入・販売
<沿革>
1994年 シドニーに現地法人を設立
1995年 営業開始
<トップに聞く10の質問>
1. 座右の銘:「幸せは自分の心の中に在る」
2. 今読んでいる本:池井戸潤・著「空飛ぶタイヤ」
3. 豪州の好きなところ:特にシドニーの美しい景色と年間を通じ住みやすい気候
4. 外から見た日本の印象:良い点はおもてなしの心と行動、残念な点は将来ビジョンを示せる政治家の不在
5. 好きな音楽:イージー・リスニング系
6. 尊敬する人:坂本竜馬
7. 有名人3人を食事に招待するとしたら誰?:往年のオードリー・ヘップバーン、イングリッド・バーグマン、ジェニファー・ジョーンズ
8. 趣味:天体観測、映画鑑賞、読書、ゴルフ(時系列順)
9. 将来の夢:ゴルフのシングル・プレーヤー
10. カラオケの十八番:「新潟ブルース」